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平和を欲するなら、健康のために働け!

核戦争防止国際医師会議第17回大会声明

フィンランド・ヘルシンキ

200698

 

60年あまり前のアメリカによる広島と長崎への原爆投下は、われわれ人間は実は奇跡的に生き延びているだけなのだということを世界に気づかせた。40年以上前には、医師や科学者たちが、どうのようにして核兵器が無差別に数千万人を殺戮し、社会全体と環境系を破壊し、未だ生まれていない世代にまでガンや遺伝子傷害をひきおこすかを解明した。数千発の核弾頭による核の応酬がおこれば、最悪の場合には、核の冬が訪れ、それが人類の滅亡につながることを、われわれは滅亡の瀬戸際でようやく知ったのである。

 

ヒロシマ・ナガサキの写真が初めて発表されるとほぼ同時に、世界で人々が集まって、この大量絶滅兵器が二度と再び使用されないよう求める運動が始められた。アルバート・シュヴァイツァー博士が、1957年におこなった核兵器に反対するラジオ演説は―彼はそれを良心の宣言とよんだ―核兵器をなくし、核戦争そのものをなくすことにたいする医師の基本的な道義的立場を明らかにするものだった。

 

IPPNW17回大会がヘルシンキで開催されている現在でも、戦争を選ぶのか、あるいは世界の全ての人々の平和、健康、安全へ―そして地上の人類の生き残りへと―むかうより良い道を選ぶのかという選択は、冷戦時代が終ったときと同じくらい重大で緊急であることに変わりない。

 

中東地域は、ごく最近、激しい戦火にふたたび見舞われた。その結果、数十年続いているこの紛争の当事国の国民は、どちらの側も真の敗者になった。イラクは、大量破壊兵器を保有しているという嘘の主張に基づいて始められた先制戦争と占領の結果、混乱に陥っている。10万人以上の人々―兵士および民間人―が、この大義なき戦争で命を失い、中東と世界の真の保健と安全保障のために投資することができたはずの数千億ドルが浪費され、日々の死傷者数は少しも減ることがない。

 

北と南の二極化―現代の戦争の根本原因の一つ―は、医療や教育を受ける機会、環境保護、持続可能な経済発展、および世界の数十億人の安全保障などで、目にあまる不平等となってあらわれている。これらの不平等は、紛争を激化させ、軍事化や武器による暴力、テロ行為、戦争などをひきおこしている。事実、小型武器の暴力は世界の主要な公衆衛生問題の一つであり、全世界で毎年、数万人の命を奪い、数十万人の負傷者をつくりだしている。公平で、持続可能で平和な世界の発展を妨げる問題を解決するカギのひとつは、発展途上国も先進国も同じように、清潔で安全な再生可能なエネルギー資源を利用することを保証することである。核エネルギーは、核兵器と切ってもきれない関係にあり、将来にたいする許しがたい脅威として、核兵器と同様に放棄されなければならない。

 

われわれは医師として、戦争を防止し、健康と人権に基づいた世界的安全保障の枠組みを確立するために活動することを決意している。しかし、IPPNWの使命を25年以上も定義してきた重要な目標が未だに達成されていないことに、われわれは失望と怒りを感じている。核兵器保有国が、核不拡散条約第6条で自ら約束し、また国際司法裁判所が国際法のもとで核保有国にはその義務があると判断したにもかかわらず、核保有国が保有する核兵器をなくそうと意図していることを示すしるしは全く見られない。それどころか、逆に核保有国の一部は、今や核兵器を戦場で実際に使用すると公言してはばからない。このような脅しこそが、抑止力として核兵器を入手しようとする国を増やし、核のテロの危険性を増大させているのである。

 

核兵器廃絶は人間の安全を保障するための緊急の目標であり、待ったなしの課題である。核兵器保有国と非保有国は、共同して核兵器条約をめざす交渉を直ちに始めなければならない。

 

アメリカの安全も核兵器がなくなれば大きく改善するであろう。アメリカはこの核兵器廃絶という目標達成に必要なリーダーシップを発揮すべきである。ロシアもアメリカのミサイル防衛を負かすように設計された新型多弾頭ミサイル開発に資源を無駄に浪費するのではなく、その代わりにアメリカと力をあわせて、既存の核兵器を速やかに廃棄する計画に十分な資金を割当てて実施するとともに、全ての核分裂物質を厳重に保管し、第三者の手に渡らないように管理すべきである。

 

イギリスは、トライデント潜水艦を新型の戦略核兵器システムに置き換えるのではなく、その代わりに、核保有5カ国のなかで最初に非保有国になると宣言し、他の全ての核保有国の歩むべき道を照らす道徳的な光明となるべきである。テロに対応するためなら核兵器使用をためらわないと最近宣言したフランスは、新型の長距離ミサイル開発計画を放棄し、ヨーロッパを非核兵器地帯にするためにリーダーシップを発揮すべきである。欧州連合は、NATOの核政策と欧州国家のNPT6条義務との矛盾をそのままにしておくのではなく、欧州の領土からのアメリカの戦術核兵器の撤去と、NPT条約の精神ばかりでなく文言にも反する核兵器共有政策を終わらせることを要求すべきである。

 

インドとパキスタンは、究極的には両国の経済から医療、教育、開発のために死活的に重要な資源を吸い取り、悪くすれば、その地域全体を放射能の荒地に変えてしまいかねない核軍拡競争を加速するのをやめ、その代わりに核兵器を放棄して、共同して南アジア非核兵器地帯を創出するリーダーシップを発揮すべきである。イスラエルは沈黙政策によって核兵器保有を隠蔽し続けるのではなく、その代わりに中東非核兵器地帯創出の協定の一環として、保有している核兵器をなくすべきである。朝鮮人民民主主義共和国は安全保障を核兵器保有に求めるのという無益な努力をやめ、非核保有国として再びNPTに加盟すべきである。イランは世界にたいし、核兵器を所有する意図はないこという明確な保証を与えるべきであり、世界はイランと協力して、イランの正当な安全保障のニーズが満たされるように保証しなければならない。

 

冷戦時代に世界が核による破滅を免れられたのは幸運であった。194589日以後、これまで引き延ばしてきた核廃絶という課題に今こそ取り組まなければ、21世紀のわれわれは、もうそれほど幸運でないかもしれないのだ。ノーベル平和賞を受賞し、核兵器廃絶こと世界規模の予防医療であることを認識している医師の団体として、われわれは核兵器保有国―および核保有国になる野心をもっている国―にたいし、60年間続いているこの悪夢から世界を解放するように要請するものである。

 

(訳:反核医師の会事務局)